雑感(役員と使用人の違い)-つれづれなるままに税理士 Vol.15-
経営者と使用人の役割の違い
よく「サラリーマンは朝9時に出勤しているのに、社長は10時に出てきて重役出勤でいいなぁ」とか、「社長や専務は給料が高くてうらやましい」といった声を耳にします。
しかし、これは不思議なことではなく、役員と使用人の立場の違いからくるものです。
人間としてはみな平等ですが、会社に属する以上「役員」と「使用人」では身分が異なります。
雇用契約と委任契約の違い
使用人は会社と雇用契約を結びます。これは民法第623条に定められており、労働者が労働を提供し、その対価として雇用主から賃金を受け取る契約です。
一方で役員は会社と委任契約を結びます。株主から会社の経営を任され、その成果を出すことが求められる立場です。
簡単に言えば、
- 使用人は「労働時間と労働力を提供して賃金を得る人」
- 役員は「会社を儲けさせるように動くことを株主から委任された人」
となります。
入社式での学び
私自身、新卒で勤めていた会社の入社式で、社長から次のような言葉をいただきました。
「あなたたちから見て、私は昨日まではただのおっさんだったと思います。
しかし今日からは私が社長で、あなたが従業員です。そのことを十分理解しておくように。」
当時は驚きましたが、今思えばこれは「会社における立場の違い」を端的に表した、とても大切な言葉でした。
人としては同じでも、会社に属した瞬間に「社長」と「従業員」では責任と役割がまったく異なるのです。
役割と責任の違い
この違いにより、役員には残業代がなく、時間的な拘束も本来存在しません。ですがその代わり、経営がうまくいかなければ株主総会で解任されたり、最悪の場合は株主から訴えられることもあります。
一方で使用人は雇用契約に守られており、原則として突然解雇されることはありません。
また、使用人から役員になった場合によくあるのが、「使用人根性」が抜けず、役員としての仕事ができないケースです。役員と使用人の違いを正しく理解し、自分の立場に応じた会社へのアプローチを考える必要があります。
補い合う存在
では、この違いを理解することはなぜ大切なのでしょうか。
使用人にとっては「自分の労働が会社の経営にどうつながっているか」を知ることで、仕事への意識が変わります。
経営者にとっても「従業員の生活を守る責任がある」という点を忘れてはいけません。株主への成果責任と同時に、従業員の労働が報われる環境を整えることも重要です。
役員と使用人は「対立する存在」ではなく「補い合う存在」です。役員が会社の方向性を決め、使用人がその実行を支える。この協力関係があってこそ会社は成長していきます。
会社は一人では成り立ちません。役員も使用人も、それぞれの役割を理解し尊重することで、健全で力強い組織が生まれるのです。
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